“抑制が効いた表現の中に情熱とロマンティシズムがあふれるマテオの世界に浸った夜”

mateo guitar マテオ・ストーンマン 福岡公演・コンサートレビュー

ギタースタンドがあるのに無造作に壁に立てかけられたギターに開演前から聴衆は目を奪われていた。良くいえば長年使い込まれたと形容できるし、悪くいえばまったく手入れが行き届いていないボロボロの楽器のようでもある。いずれにしても、そのほとばしるような経年感は「これからどんな演奏が始まるのだろうか?」という高揚感を私たちに与えるに十分だった。

深く記憶に残るすぐれたライブ・パフォーマンスの例に漏れず、彼の唄声の最初の一音から聴衆はすぐに彼の世界へ引き込まれたと思う。まるで田畑義夫のように高くかまえ、ストラップが付いていないレフティーのギターが紡ぎ出すミディアム・テンポのボレロのリズム。それは穏やかなうねりにたゆたう小舟に乗っているかのように私たちを心地よく揺らしてくれた。ファルセットに限りなく近い唄声はささやきのようでありながら圧倒的な存在感を持っている。まるで78回転SPレコードから流れている音のようにも思えるマテオ独特の空気に包まれていった。数曲が終わったところで、ギターからピアノの弾き語りへと移る。全体を小さな音に押さえて表現するのがマテオのこだわりとスタイルらしく、それはピアノになっても変わらない。最初の神戸公演では、2本のスピーカーを1本に減らすようにリクエストしたらしい。この抑制の効いた音によって聴衆はなおさら引き込まれていったように思える。

スペイン語の歌詞で書かれたオリジナルの曲とカバー曲を織り交ぜながら演奏は進んでいった。マテオは、Jose Antonio Mendez (ホセ・アントニオ・メンデス) や Cesar Portillo de la luz (セザール・ポルティージョ・デ・ラ・ルズ) など50年代から60年代にキューバで起こったスタイル、 “feelin’” (フィーリン) の代表的な歌手に影響を受けていると思いこんでいたのだが、カバー曲の多くは、それ以前、1920年代から40年代のボレロの名曲たちとのこと。それはキューバ革命以前、ハバナが裕福なアメリカ人たちのためのリゾートであり、カジノや高級クラブ、キャバレーで演奏されていた音楽で、ある種のラウンジ・ミュージックとも言えるだろう。そのうちの何曲かのメロディーは聞き覚えがあって、エンゲルベルト・フンバーティングが歌って大ヒットした「太陽は燃えている」や ペリー・コモが歌ってヒットした “It’s Impossible” だった。英語のスタンダードだと思っていたのだが、原曲はスペイン語の曲だということを初めて知った。マテオによるとスペイン語の原曲はとてもロマンティックで情熱的なラヴ・ソングだが、ヒットした英語の歌詞はひどくつまらないものに置き換えられてしまったらしい。

マテオが表現するボレロは、ヒスパニックの人たちから「白人が演奏する本物ではないラテン音楽」と評されるそうだが、マテオのような白人が掘り起こし解釈したからこそ、私たちを深く魅了するのではないだろうか?

演奏は、休憩をはさみ2セットと3曲のアンコールを含め約2時間におよび、狭い会場で肩を寄せあいながら聴いていた約70名のオーディエンスが、抑制が効いた表現の中に情熱とロマンティシズムがあふれる彼の世界に浸った夜だった。

production dessinée 丸山さん、モダンタイムズ 樋口さんとスタッフのみなさん、PAをご担当いただいた浜崎さん、お手伝いいただいた河津夫妻、梅田さん、小久保さん、そしてお越しいただいたすべての方々、ありがとうございました。感謝いたします。

公演日 :  2013 年 1月 20日
会    場 :  モダンタイムス

マテオ・ストーンマン・ジャパン・ツアー・2013 は、1月 27日まで。  詳細は、 [こちら]

マテオ・ストーンマン・アルバム (試聴可)
1st Album  ”Mateo Stoneman” / CD
1st Album  ”Mateo Stoneman” / LP Record
2nd Album “Mi Linda Havana” / CD

(cover photo by Tomoko Takesue)

マテオ・ストーンマン (Mateo Stoneman)
ニューハンプシャー生まれ、現在はロサンゼルスとキューバを行き来して活動を続ける男性SSW。アメリカンドリームを夢見て移住したL.A.では窃盗容疑で全てを失い服役。その時、ラテン音楽の素晴らしさに目覚め、スペイン語で歌い始めた頃から彼の人生は一変。出所後は、LAのストリートを中心にライブ活動を続け、『The Cuanto Cuesta Show』(ラテン系の「アメリカン・アイドル」的人気オーディションTV番組)に毎週出演した事や、その興味深い経歴が大手新聞各誌で紹介されるようになり、一躍誰もが彼のことを知るようになる。その甘く繊細な歌声と美しい旋律で奏でられるボレロは、一聴で聴く者を虜にしてしまうほどに魅力的で唯一無二。

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