marcio曲の合間、会場に響き渡るワイングラスが床に転がる音。
「カラン・コロン・カーン!」
会場全体が緊張する・・・と、誰もが思った瞬間に違いない。
でも、それは見事に杞憂に終わった。
マルシオは、グラスが転がった音、まさにその音を即座にメロディに置き換え、ギターを爪弾きながらスキャットを始める。
会場は一瞬にしてリラックスし、私たちの心は、わし掴みに。
卓越したシンガー、ギタリスト、コンポーザーであると同時に、マルシオはとても優れたエンターティナーであることを実感できたライブならではのハプニングだった。

父親が軍人だった関係で幼いころからブラジル各地を転々としたマルシオ。最南端の街から最北端の街へ車で一週間かけて移動したときに想い出を綴った曲、パリの街角を想わせる曲など、私たちをいろんなところへの旅に連れて行ってくれた。曲によってギターから10弦のヴィオラ・カイピーラへ持ち替える。それぞれの弦がダブルになってオープンチューニングされた音色は独特で、とても魅力的な響きだった。

ティピカルなボサノヴァを期待して来場された方は、いい意味で期待を裏切られ、生まれ育ったブラジルの伝承音楽をベースにしながら多様な音楽性を持ち現在を生きるマルシオのアーティストとしての魅力に惹きつけられた夜になっただろう。サポートのエルヴェ・モリゾのギターも文字通りサポート役に徹し、マルシオの世界を広げ、とても好感が持てたバッキングだった。

ichigo会場となった papparayray。公演前日に下見に訪れた際、マルシオはすぐにこの会場をとても気に入ってくれた。雰囲気もさることながら残響感と音の抜けのバランスの良さは古民家ならではのもの。手造りの「苺のサングリア」など他会場では見られないスペシャルなドリンクを提供していただいた。公演開始直後はツアー初演ということもあって多少の緊張感があったが、後半はアーティストとオーディエンスともにとてもリラックスし、一体となれたのはこの会場が持つ空気感が一役かっていたように思える。

福岡に素晴らしい演奏を届けてくれた マルシオとエルヴェに深く感謝するとともに、この公演を実現していただいた大洋レコード 伊藤さん、papparayray 山西さん、中田さん、サウンド・エンジニア ジャバラ倶楽部の江島さん、そしてお手伝いいただいた afterglow 河津夫妻と梅田さんに感謝します。
そして、ご来場いただいたみなさま、本当にありがとうございました。

最後に裏話を少しだけ。
少年時代のマルシオは、プロ・サッカー選手を夢見ていたそうです。そして、今でもブラジルに帰ると、ブラジル音楽の巨匠、シコ・ブアルキの草サッカーチームでプレイしているそうで、シコは「超」が付くくらいのサッカー狂いだそうです。マルシオは「サッカー狂いでなければブラジル人ではない!」と言い切ってました (笑)。

シコ・ブアルキ絡みの話をもうひとつ。渡仏後になかなか芽が出なかったマルシオにとって、ディディエール・シュストラックとの出会いがその後のプレイヤー/シンガーとしてだけではなく作曲家としての成功へのドアを開いてくれました。親しい友人となったディディエールが、ある日、「シコ・ブアルキが君に曲を書いて欲しいって言ってるよ。」と話し、シコのための作曲を勧めました。でも、マルシオにとって、シコはずっとあこがれの存在。マルシオは「シコは自分がもっとも尊敬する音楽家のひとり。そんな偉大なアーティストのために僕は曲を書けない。」と断ったそうです。しばらくして、ディディエールが再度電話をかけてきて「君は気がおかしいんじゃないの? あのシコ・ブアルキが君に曲を書いて欲しいと言ってるんだぜ!」と伝えました。それでもマルシオは「シコは僕にとっての永遠のアイドル。自分の中でその存在をずっと大切にしたいから、僕は書かない。」と、頑に断ったそうです。マルシオの才能への評価と同時に彼の謙虚さが伝わるとてもいい話と思いました。

 

マルシオ・ファラコ・ジャパン・ツアー・2013・福岡公演

Márcio Faraco (マルシオ・ファラコ)  :   vo.  g.
Herve Morisot (エルヴィ・モリゾー) :   g.

公演日 : 2013年 3月 17日
会場 :  papparayray – パッパライライ

ツアー・コーディネーター :  大洋レコード
サウンド・エンジニア :  ジャバラ倶楽部

マルシオ・ファラコ – オフィシャル・サイト :  http://www.marciofaraco.com/

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Márcio Faraco -マルシオ・ファラコ
フランス在住のブラジル人シンガー・ソングライター。’63年ブラジル南東部アレグレーテの生まれで、’92年からパリに移住しボサ・ノヴァ・ギターのプレイヤーとして活動。クレモンティーヌの大ヒット作「クーラー・カフェ」への参加や、男性歌手ディディエール・シュストラックのバックを務め、フランスとブラジルの双方で6枚のソロ・アルバムをリリース。モントルー・ジャズ・フェスをはじめ多くのジャズ・フェスや大劇場での公演はいずれも大きな評判を呼ぶ。ブラジル音楽界の大御所であるシコ・ブアルキやヴァギネル・チゾ、ミルトン・ナシメントらの参加を仰いだ各アルバムは、ここ日本の多くのボサ・ノヴァ・ファンの間でも話題に。日本盤もリリースされた最新作「ウ・テンポ」は、リオ・デ・ジャネイロとパリを行き来して描かれたボサ・ノヴァのゆるやかな揺らぎと陽光を浴びた穏やかなギターのトーン、うっとり包み込むように詩情が溢れるソフトな唄声で、シンプル・アコースティックな大傑作。